ノートルダム大聖堂の火災、朝までに鎮圧 尖塔と屋根が崩落
フランス・パリ中心部にあるノートルダム大聖堂で15日夕に発生した大規模な火災は、16日未明、発生から約9時間後にほぼ消し止められた。2棟の塔など大聖堂の主要な構造は焼失を免れたが、尖塔と屋根が崩落した。
築850年になるゴシック様式の大聖堂は世界遺産に登録され、フランスでも特に有名な名所のひとつ。
エマニュエル・マクロン仏大統領は、大聖堂の再建を国民に約束した。
出火原因は明らかになっていない。消防当局は改修工事との関連について調べている。消火活動中、消防隊員1人がに軽傷を負ったという。
大聖堂は老朽化が進み、壁に亀裂が入るようになったたため、フランスのカトリック教会が昨年、改修のため寄付を募っていた。
パリ市内では複数の教会が、大聖堂の火災を受けて、鐘を鳴らした。
大聖堂を囲む通りには数千人が集まり、聖歌を歌ったり祈ったりする人もいた。
パリ検察庁は、「火災による偶発的破壊」について捜査を開始したと明らかにした。
鎮火には数日かかるか
火災は15日午後6時半(日本時間16日午前1時半)ごろに発生。瞬く間に大聖堂の屋根に燃え広がり、ステンドグラスや木造の内装が焼失した。
屋根や尖塔が崩落したことから、大聖堂の2棟の塔も火災で破壊されるのではとの不安が広がった。
火は塔にも燃え移っていたが、ローラン・ヌネズ内務次官は、塔全体に燃え広がる前に火を消し止めたと発表した。
16日未明には火が消し止められたと発表されたが、完全に鎮火するまでにはなお数日かかるとみられている。
被害の規模は?
16日朝には、調査チームが被害状況を確認するために大聖堂内に入っている。
消防当局の報道官は、「屋根は全て崩落し(中略)ヴォールトの一部も崩れ、尖塔は焼失した」と説明した。
現地紙ル・モンドによると、ヌネズ内務次官は、消防隊が聖堂内で消火活動をしなければ「建物が崩れていたことは疑いようがない」と話した。
フランク・リーステール文化相は、大聖堂の主要部分は守られたが、建物はなお不安定な状態だと警告している。
12世紀から13世紀にかけて建立されたノートルダム大聖堂からは、緊急隊が貴重な美術品や宗教関連の品々を運び出し、いずれも無事だった。
運び出された物の中には、イエス・キリストが十字架にかけられた際に被っていたとされるいばらの冠や、ルイ9世がこのいばらの冠をパリに持ち帰った際に着ていたとされる上着なども含まれる。
パリのアンヌ・イダルゴ市長は、「芸術品の保護のため、人々が結束してくれた(中略)芸術品は保護され、安全な場所に保管されている」と話した。
「この火災は世界全体にとっての悲劇だ。ノートルダム大聖堂はパリ全体の歴史の象徴だ」
歴史家のカミーユ・パスカル氏は仏テレビBFMTVに、「貴重な遺産」が火災で破壊されていると話した。
「大聖堂は800年にわたりパリを見守ってきた。嬉しいことも悲しいことも、何世紀にもわたり、ノートルダムの鐘が刻んできた」、「目の前の光景はひたすら恐ろしい」とパスカル氏は嘆いた。
ノートルダム大聖堂には年間1300万人近くが訪れ、来訪者はエッフェル塔より多い。
再建のめどは?
大聖堂の再建については、すでに個人や団体からの寄付が始まっている。
AFP通信によると、高級ブランドのグッチやイヴ・サンローランなどを保有するケリング・グループのフランソワ=アンリ・ピノー会長は、1億ユーロ(約126億5000万円)を再建に拠出すると申し出た。
ロイター通信は、ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシーと同社を保有するベルナール・アルノー一家が2億ユーロの寄付を約束したと伝えた。
このほか、フランスの慈善団体が国外からの募金を受け付ける準備を始めている。
仏大統領「国民は再建を望んでいる」
エマニュエル・マクロン仏大統領は15日夜に現場に駆けつけ、「すべてのカトリック教徒とすべてのフランス国民と共に」悲しんでいると話した。
「フランスの全国民と同じように、自分たちの一部が燃えているこの光景は悲しい」と、大統領は述べた。
その上で、再建に向けて国際的な募金スキームを立ち上げると発表し、直ちに再建に着手すると約束した。
「フランス国民は再建を望んでいるし、フランスの歴史はそれに値するものだ」
大聖堂ではこのところ改修工事が進んでおり、先週には16体の銅像が撤去されたばかりだった。
各国の反応は?
ローマ法王庁は、大聖堂の火災は「衝撃的で悲しい」とコメントし、フランスの消防当局のために祈っていると述べた。
ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、ノートルダム大聖堂が「フランスとヨーロッパの文化の象徴」だと述べ、フランス国民への支援を申し出た。
また、イギリスのテリーザ・メイ首相はツイッターで、「フランスの人たち、そしてノートルダム大聖堂のこのひどい火災と戦っている救急関係者に思いを寄せています」と書いた。
一方、ドナルド・トランプ米大統領は火災は「見るに耐えない」とツイート。「水のタンクを飛ばしたらどうか」と消火方法を提案した。
しかしフランスの消防当局は、空からの放水を行うと大聖堂全体が崩壊する恐れがあるとして、この方法を退けている。
<解説> 国の象徴――アンリ・アスティエ、BBCワールドオンライン
ノートルダムほどパリを表すものは、ほかにない。国のシンボルとしてはほかにエッフェル塔があるが、エッフェル塔は築100年余りに過ぎない。ノートルダムは1200年代から絶えず、パリの街を見下ろしてきた。
国民的文学作品の題にもなった。ヴィクトル・ユーゴーの小説の原題は、「パリのノートルダム」。それだけだ。
大聖堂はフランス革命で大きく破損したが、それ以降はおおむね無事だった。2度の世界大戦でも戦禍をほとんど逃れた。
これほどまでに国の連続、永続を体現してきた名所が燃え上がり、尖塔が崩れ落ちた。あらゆるフランス人にとって、あまりにもショッキングな光景だ。
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